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福岡地方裁判所 昭和48年(行ウ)23号 判決

原告 橋本一夫

被告 北九州市固定資産評価審査委員会

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  別紙目録記載の山林、原野について、北九州市長が決定した昭和四八年度固定資産課税台帳登録価格につき、被告が昭和四八年六月一三日付でなした原告の審査申出を棄却するとの決定は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は別紙目録記載の山林、原野(以下、本件山林、原野という。)の所有者である。

2  北九州市長は、右山林、原野につき、昭和四八年度の固定資産税の課税標準である価格(以下、これを単に価格という。)をそれぞれ別紙目録決定価格欄記載のとおり決定し、その旨北九州市備付の固定資産課税台帳に登録した。

3  原告は右登録価格に不服があるため、昭和四八年三月二九日被告に対し審査申出(以下、本件審査申出という。)をしたところ、被告は昭和四八年六月一三日右申出を棄却するとの決定(以下、本件審査決定という。)をした。

4  ところが、右審査決定は次のとおりの瑕疵があるので、取消されるべきである。

(一) 固定資産の価格決定については、地方税法四〇三条により自治大臣の定める固定資産評価基準によるべきとされているにもかかわらず、本件山林、原野についての前記北九州市長の価格決定は右基準によつていない。従つて、右価格決定は違法であつて、本件審査決定はこの点を看過している。

(二) 原告は本件審査申出書を提出する際、かかる手続に不案内なため、右申出用紙のその他欄(口頭審理希望の有無、添付参考資料の名称、数量その他参考事項を記入すべき欄)には何も記入しなかつたところ、被告は原告に一切口頭審理希望の有無を確かめることなく、右未記入の故を以つて、本件審査申出を書面審理の手続で処理した。

又、本件審査申出は原告からの申請がなくとも被告自ら口頭審理手続によるのが相当な事案であつたにもかかわらず、被告は右手続を履践しなかつた。

以上のように、本件審査申出については、被告は当然原告の希望を確かめた上、口頭審理を行うべきであつたのに、これを行わず、その結果原告に前記価格決定の計算根基を明らかにせず、これに対する意見陳述、資料提出の機会を与えなかつた。従つて、本件審査決定にはその審査の手続に瑕疵がある。

(三) 被告は本件審査決定の理由として、市街化区域内の介在山林、原野については岩石山としての特別評価はない旨説示しているが、本件山林、原野を介在山林、原野と認定した理由は述べられていない。従つて、右決定には理由不備の違法がある。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  請求原因4の(一)の事実は否認する。同4(二)の事実中、原告が主張のとおりの審査申出書を提出したこと及び被告が本件審査申出につき書面審理の手続によつたことは認めるが、その余の事実は否認する。同4(三)の事実は認めるが、その主張は争う。

三  抗弁

1  価格決定の適法性について

本件山林、原野は、いずれも都市計画法第七条の規定による市街化区域内に存しており、右区域は同法施行後おおむね一〇年以内に優先的且計画的に公共投資をして市街化を図るとされているので、同区域内の山林、原野は全て宅地としての潜在的価値を有するものというべく、付近宅地の評価との均衡上、固定資産評価基準の所謂例外的評価方法(同評価基準第一章第七節山林、第九節原野の各第一項但書による方法。)によることが適当である。

そして、市街化区域内農地については、地方税法附則第一九条の二第一項及び固定資産評価基準第二章第二節の二が新設され、全て右に述べた例外的評価方法によるものと定められたことに伴い、北九州市では自治省及び福岡県の指導により、地方税法及び固定資産評価基準の裁量の枠内で、これら市街化区域内の山林、原野の評価方法につき別途固定資産(土地)評価事務取扱要領(以下、単に取扱要領という。)を作成追加し、これにより右山林、原野については全て前記例外的評価方法によることとした。

本件山林、原野についての前記価格は、いずれも右取扱要領に基づいて決定されたもので、類似宅地選定の当否、その評価、傾斜山林との認定及び傾斜山林内の介在原野との認定とも全て適当である。

2  書面審理手続について

地方税法四三三条二項は、口頭審理の申請があつた場合には、特別の事情のある場合を除き口頭審理によるべく、その場合には公開しなければならないと定めているのであつて、本件審査申出に際して、原告は右口頭審理を申請していない。従つて、この場合地方税法四三一条、北九州市昭和三八年二月一〇日条例第三三号及び北九州市固定資産評価審査委員会規定(昭和三八年三月六日固評委告示第一号)により、書面審理によるか口頭審理によるかは被告の裁量に委せられているというべきところ、本件審査申出の趣旨が本件山林、原野については取扱要領と全く異る新規の評価方法によられたいというにあり、被告としては右物件のみ特異の取扱いもできず、職権調査の結果前記のとおり北九州市長の評価に不適法の瑕疵がないことが判明したので、もはや口頭審理の必要を認めなかつたものであつて、右手続には何ら違法も存しない。

尚、本件審査申出書の記載方法については係吏員が原告に十分の教示をなしたところ、原告は以前にも同様の申出をした経験があり、今回も敢えて口頭審理を希望しないとの明言があつたので、口頭審理希望なしとの積極的記載は省略させた。

3  理由の記載について

本件申出の趣旨は右に述べたように本件山林、原野については特別の評価方法によつて欲しいというのであつて、これは北九州市長の裁量の範囲を逸脱するものであるから、右申出を棄却する理由としてはそのような評価方法によることはできない旨答える外はなく、決定書にそれ以上の一般課税準拠規定を繰返すことは具体的事案に対する決定の理由としては適当でない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、本件山林、原野が市街化区域内に存すること及び同区域内農地については被告主張のとおりの評価基準が存することは認めるがその余の事実は不知。本件山林、原野の評価は例外的方法によるのが適当であるとの主張は争う。

2  抗弁2の事実中、原告が本件審査申出に際して積極的に口頭審理を希望したことのないこと及び以前にも審査申出をした経験のあることは認めるが、それは一〇年前の経験であり、本件での被告の教示も原告が十分理解し得るものではなかつた。原告が口頭審理を希望しないと明言したとの事実は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  価格決定の適応性について

本件山林、原野についての各決定価格は、いずれも成立に争いのない乙第四号証の一、二、同第一〇号証の一、二、同第一二号証の一ないし五並びに証人室岡泰雄、同松養邦栄(第一、二回)及び同野々上誠人の各証言によると、右山林、原野がいずれも都市計画法七条の規定による市街化区域内の傾斜山林あるいは傾斜山林内に介在する原野と認められるため、北九州市において固定資産評価基準の内部的運用基準を定めた前記取扱要領の第一二章の規定(山林についてはその第四、原野については第五)により、類似宅地を北九州市小倉区小熊野九四七番七(坪当り一万八〇〇〇円)として、右宅地価格の三パーセント(山林)あるいは五パーセント(原野)と評価の上、決定されたことが認められる。

これに対して、原告は右取扱要領による価格決定を法律に基づかない違法なものと主張するので、以下この点について検討する。

地方税法は固定資産税の課税標準である固定資産の価格について、当該固定資産の適正なる時価によるものとし、その納税者間の税負担の均衡を保つ必要から、市町村長は右固定資産の価格を決定するについては、自治大臣の定める固定資産評価基準によらなければならないと定め、その評価の方法を全国的に統一している。よつて、右法律の趣旨からすると、固定資産評価基準によらない価格決定は違法なものであるというべきであるが、そもそも全国に無数に存在する固定資産の価格を適切且画一的に評価し得るような一般的基準を設けることは技術的にみても不可能に近く、又、あまりに画一的な基準を設けることは個々の固定資産の実情に則した評価を妨げることにもなつて、かえつて納税者間に不平等をもたらすことにもなりかねないと思料されるから、固定資産評価基準の定める評価の基準等がある程度抽象的な内容となり、多少とも現実にその評価事務に当る市町村の適切なる裁量に委ねる結果になつたとしても、それは右に述べた理由から是認されるべきである。従つて、各市町村において、個々の固定資産の実情に則した評価を実施し、現実の評価担当職員の恣意を封じ、納税者間の平等を図る目的から、固定資産評価基準の抽象的あるいは概括的規定についての運用上の基準を定め、これに沿つて右評価事務を処理することは、その基準が地方税法及び固定資産評価基準の許容する範囲内である限り何ら差支えなく、その限りでは法律による課税というを妨げないものと解するのが相当である。

そこで、以上のことから前記乙第一二号証の五により認められる取扱要領第一二章の規定と固定資産評価基準とを比較してみると、まず山林の評価方法について、固定資産評価基準は原則として所謂評点式評価法によるべきこととし、例外的に「宅地、農地等に介在する山林及び市街地近郊の山林で、当該山林の近傍の宅地、農地等との評価の均衡上、上記の方法(評点式評価法)によつて評価することが適当でないと認められるものについては、当該山林の附近の宅地、農地等の価格に比準して、その価格を求める。」(以下、これを例外的評価方法という。)と定めているのに対し、取扱要領は、「類似宅地の価額を基準として求めた価額から、山林を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する額を控除した額によつてその価額を求める。」とし、例外的に傾斜山林については、「類似宅地の単位当り評価額に比準割合三パーセントを乗じて評価額を求めることができる。」と定め、基本的には市街化区域内の山林については、全て固定資産評価基準の定める右例外的評価方法によるものとしていること(尚、右評価基準別表第七及び取扱要領第七章には岩石地を含む山林については、その実情に応じて比準割合を補正する旨の特別規定があるが、右取扱要領第一二章にはかかる規定が存しない。以下はこの点を含めての検討とする。)、及び原野の評価方法について、固定資産評価基準が、「売買実例価額から評定する適正なる時価」によるものとし、二次的に「売買実例価額がない場合には附近の土地の価額に比準して、その価額を求める。」(以下、これを第二次的評価方法という。)と定めているのに対し、前記取扱要領は、市街化区域内の原野については右に述べた「同区域内の山林の評価方法に準じて(傾斜山林のうちに介在する原野等については比準割合を五パーセントとすることができる。)その価額を求める。」と定めていることが、両規定の文言上、主だつた差異であり、その余の前記取扱要領第一二章の規定(本件山林、原野について直接適用された傾斜山林及び傾斜山林に介在する原野の価額と類似宅地のそれとの比準割合がそれぞれ三パーセント及び五パーセントであるとの点も含めて。)は、いずれも固定資産評価基準の内容を更に具体的且明確にしたものと認められ、前述のところから特に問題とする必要もないものと解される。

そこで、まず右取扱要領の市街化区域内山林についての規定であるが、問題は要するに山林が市街化区域内に存するということのみで、一般的に、固定資産評価基準が定めている前記例外的評価方法によると定めることの適否にあるものと考えられるが、思うに、(一)都市計画法の規定により市街化区域と指定された地域は、「すでに市街地を形成している区域及びおおむね一〇年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域(同法七条二項)」であつて、同法の施行によりその土地の現況や所有者の主観的意図はともかく、一応は全て宅地としての潜在的価値を有するに至つたといえること、(二)都市計画法の施行に伴つて、市街化区域内の農地の評価方法については、地方税法附則第一九条の二及びこれを受けた固定資産評価基準第二節の2が新設され、全て一律に前記例外的評価方法によることとされていること、(三)一方、山林についてはかかる規定は設けられなかつたが、納税者間の公平ということや右(一)に述べたことからすると、特に山林と農地とを区別しなければならない積極的な理由はないことから、山林についてかかる措置が講ぜられなかつたのは、結局山林については既存の前記固定資産評価基準の適正な運用により同様の目的が達せられると考えられたためと解し得ること、即ち市街化区域内山林は、(一)で述べたように少くともその付近が近い将来市街化されることが予定されており、潜在的には宅地としての価値を有するものといえるから、固定資産評価基準が例外的評価方法によることの要件として定めている(1)、宅地、農地等に介在する山林、あるいは、(2)、市街地近郊の山林で(3)、近傍の宅地、農地等との評価の均衡上、上記の方法(評点式評価法、純山林としての売買実例価額が基礎とされている。)によつて評価することが適当でないと認められるもの、という各要件を満足するものと考えられること、の以上(一)ないし(三)の各事情を総合してみると、前記取扱要領の市街化区域内山林に関する規定は地方税法あるいは固定資産評価基準の許容する範囲を逸脱しているとは解せられない。

次に市街化区域内原野の評価方法に関する前記取扱要領の規定について考えてみるに、その基本的な事柄は右市街化区域内山林について述べたところと同様であるが、ただ右原野の場合は右山林の場合と比較すると、固定資産評価基準の規定が、文言上は前述の第二次的評価方法によることについて市町村の裁量を認めるような形式になつていないため、この点に多少の疑問がないわけではない。しかし、税負担の公平という大原則を固定資産税について考えてみるとき、同種、同等の固定資産を有する者間の全国的視野からみた同負担ということと共に、それにも増して、同税が地方税として規定されていることや土地に関していえば課税物件は各地方地方に固定され、その価格はこれを取り囲む社会的、経済的状況によつて決定されざるを得ないことからすれば、納税者の不公平感を除く意味からも当該土地とその近傍の土地との価格の均衡(その間に地目の相違があれば、これを適正に評価した上での公平さ)ということが考慮されるべきであつて、この理は固定資産評価基準自体も容認(例えば前述の山林についての例外的評価方法を定めた規定)するところであると考えられる。すると、本件原野のように市街化区域内の山林に介在し、付近の山林及び農地は全て潜在的に宅地としての価値を有するものとして評価されている場合に、右原野のみが、その地目の相違だけを理由として、当該市町村内の他の純然たる原野の売買実例価額と単純に比較されて評価されることは、付近の農地、山林の所有者との不公平さを増すばかりであつて、決して前記租税の公平負担の原則に沿う所以ではなく、この場合固定資産評価基準の定める前記二次的評価方法による方が実質的にみると相当であると考えられるし、又、仮にこの場合「売買実例価格から評定する適正なる時価による」との原則的評価方法によつたとしても、当該原野が宅地としての潜在的価値を有するに至つたことに伴つて、純然たる原野の売買実例価額や都市計画法による所謂線引前の売買実例価額は単なる一参考資料の域を出るものではないから、右「適正なる時価の評定」にあたつては、当然附近の土地の価格との均衡ということが、大きな比重をもつて考慮されなければならず、結局、本件原野のように市街化区域内の山林に介在する原野の評価方法については、固定資産評価基準の定める原則的評価方法による場合とその第二次的評価方法による場合とではその実質においてほとんど差異がないものといわなければならない(本件原野の評価格が前年度のそれに比してかなり上昇しているとしても、それは評価方法の問題というよりも、従前の価格が低かつたことと右原野の基本的価値が上昇したことによるものと解される。)から、取扱要領の市街化区域内原野についての規定は、同要領は固定資産評価基準が第二次的なものとして規定している評価方法を原則として規定している点で、確かに形式上は右基準を一歩踏み出しているかに考えられなくもないが、右に述べたように市街化区域内の山林に介在する原野については、固定資産評価基準の定める前記原則的方法によるも第二次的方法によるもその実質においてほとんど差異のないこと、付近の土地との均衡のとれた評価という点では第二次的評価方法によつた方が妥当な結果を得られること及び固定資産評価基準も付近の土地との均衡のとれた評価ということを重要な目的としていること、しかも前記原野についての取扱要領が追加、作成されたのが都市計画法による所謂線引がなされた直後の過渡的な時期であつて、売買実例価額から適正な時価を評定することもなかなか困難な状況にあつたものと推測されることの諸事情を合せ考えてみると、同要領の前記原野に関する規定も、必ずしも地方税法及び固定資産評価基準の許容する範囲を逸脱したものとはいえない。

そこで、本件山林、原野の価格決定の当否について考えるに、それには、右要領に基づいて、その類似宅地の選定とその評価の当否及び傾斜山林あるいは同山林内に介在する原野との認定の当否について検討されねばならないが、まず類似宅地の選定については成立に争いのない乙第一三号証、証人野々上誠人の証言及び被告代表者尋問の結果により、又その評価額の相当性及び傾斜山林及び同山林内に介在する原野であるとの認定については、原告がこれを明らかに争わないことにより、いずれも相当なものと認められるから、結局本件山林、原野について北九州市長のなした前述の価格決定には違法な点はなく、従つて、これを認容した本件審査決定も結果において相当であるものといわねばならない。

三  書面審理の手続によつたことについて

本件審査手続について検討するに、原告が本件審査申出をなした際、備付の右申出用紙のその他欄(口頭審理希望の有無、添付参考資料の名称、数量その他参考事項を記入すべき空欄)には何も記入しなかつたこと及び本件審査決定が書面審理手続でなされたことは、当事者間に争いがない。

してみると、地方税法四三三条二項は、「固定資産評価委員会は、審査を申し出た者の申請があつたときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらねばならない。」と規定し、同項及び同条一項から右申請のないときには、口頭審理の手続によるか否かは同委員会の適切な裁量に委ねているものと解されるから、右のとおり原告が本件審査申出に際して、口頭審理を希望する旨を明らかにしていない以上、その申出を如何なる手続でもつて審査するかは、被告の適切なる裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

なお、原告は、口頭審理を希望しないとも明言していないのであるから、被告は右希望の有無を確認すべきであつたと主張するが(これに関して、証人室岡泰雄は原告が口頭審理は希望しないと明言していた旨証言するが、これに反する原告本人尋問の結果を考えるとき、右事実は必ずしも明らかでないというべきであるから、この点はしばらくさて置くとしても)、そもそも審査の申出がある度ごとに、被告は一々その申出人に対して、口頭審理希望の有無を確認すべき義務があると解することは、それが審査の適正を図るという意味では望ましいにしても、果して法がそこ迄要求しているかということになると、はなはだ疑問の存するところであつて、しかも、本件においては、原告は一〇年前にも一度審査申出をした経験があり、その具体的内容如何はともかく、少くとも本件審査申出に際しても、被告の担当係官から審査申出書の記載方法について説明を受ける機会があつたことについては争いがなく(抗弁2及びこれに対する認否)、原告に経験があることについては、前記室岡の証言によれば、被告もこれを知つていたかの事情が窺われ、同証言及び原告本人尋問の結果からすれば、原告は右審査申出書の記載方法について説明を受けた際、特に審理手続について質問するとか異議を唱えるということもなく、ただ漫然と右説明を受けていたことが認められ、更に、成立に争いのない乙第二号証によれば、審査申出の用紙にははつきりと口頭審理希望の有無を記入するように要求されていることが認められるから、これらの事情を総合してみると、被告が右原告の態度及び審査申出書の前記その他欄が空白のままであつたことから、原告には口頭審理の希望がないものと判断したことには違法はない。

次に、本件審査申出が、口頭審理の申請がなくとも職権で右手続によることが要求されるような事案であつたか否かについてみるに、前記乙第二号証によれば本件審査申出の趣旨及び理由の要旨は、「本件山林、原野は岩石山であるので、一般の山林、原野とは別途の取扱基準を設けて評価して欲しい。」というにあると解せられるところ、前記取扱要領には前述のように市街化区域内に存する山林、原野についてはかかる取扱基準は定めてなく、基本的には全て類似宅地の価額に比準して、その価額を求める旨規定してあり、北九州市長作成の答弁書(前記乙第四号証の一、二)には、本件山林、原野の評価は右規定の定める最低割合によつた旨が記載されていることが認められるので、このような状況下では、成立に争いのない乙第一〇号証の六及び被告代表者尋問の結果から推認されるように、右取扱要領の規定に従つて審査しようとする限り(特段の不合理がない限り、右規定自体の当否を判断するために職権で口頭審理手続によること迄要求するのは適切でない。)、被告が原告の右別途評価の申出は採用し得ず、ただ右申出については答弁書記載の類似宅地の選定及びその評価の当否を審査すれば足りると考えて、そのためには敢えて職権で口頭審理手続による必要もないものと判断したことは、結局右審査事項からみても相当であつたものと解される。

四  理由の記載について

審査申出制度の趣旨に鑑みれば、審査決定を慎重ならしめるとともに、申出人にその決定が如何なる根拠に基づいてなされたかを知らしめ、これに対する争訟の機会を与える目的から、審査決定書には理由を付することが当然要求されているものというべきであつて、その程度も右の目的からすれば、個々の審査申出の趣旨及び理由に対応して多少異るにせよ、少くとも固定資産の評価の方法及び計算根拠を具体的に明らかにすることが必要であるというべきである。

右の観点から本件をみると、本件審査申出の趣旨及び理由の要旨は、前述のとおり、本件山林、原野を岩石山として別途評価して欲しいというのであり、前記取扱要領によればかかる特別の評価ができないことも既に述べたとおりであるから、本件審査申出を棄却するに際して付すべき理由としては、市街化区域内の山林、原野については申出にあるような特別の評価方法は存在しないことと本件山林、原野の価格の算出根拠(選定された類似宅地の名称、その評価額及びそれとの比準割合)を具体的に明らかにすれば足りると考えられる。そこで、成立に争いのない乙第一一号証の二により、本件審査決定書の理由を検討してみるに、右理由は、「申出の土地は市街化区域内の山林、原野として近傍宅地(小熊野九四九―七坪当り一万八〇〇〇円)より比準し、山林は三パーセント、原野は五パーセントで評価されている。市の評価について、実地調査及び審査申出書等にて慎重に審理した結果、市街化区域内の介在山林、原野については、岩石山としての特別な評価はなく、市の評価を妥当と認める。」というのであるから、前述のところからして右理由の記載に不備な点は存しない。

五  結論

以上のとおりであるから、本件審査決定には取消すべき違法な点は存しない。よつて、その取消を求める原告の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 美山和義 綱脇和久 河村吉晃)

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